クライアントワークと自主制作の違い

クライアントワークの場合

撮影機材

カメラ

ソニーFX3

仕事での撮影は、基本的にFX3を使用。





レンズ

ホテル動画の撮影が多いため、客室を広く映すことができ、歪みも少ないLAOWA 10㎜ f2.8をメインのレンズとして使用している。


LAOWA 10mm F2.8 ZERO-D FF




ソニー FE 24-70mm F2.8 GM II




ソニー FE PZ 16-35mm F4 G




レンズ

最もキレイに色が出るNiSiのNDフィルターとBlack Mistを用途によって使用する。


NiSi NDフィルター1-5stop




NiSi Black Mist 1/4




ジンバル

DJI RS4




編集のポイント

複雑なエフェクトなどは入れず「どう見せたいか」を意識して制作

仕事の動画の場合、Instagramで投稿する動画との違いは尺の長さです。フォロワー数を伸ばすことが目的の場合は短尺のほうがいいのですが、作例としている動画のコンセプトは「家族の記念日、ママへのサプライズ」といった、バズりを狙いとしていない動画なので、1分40秒程度と長めな尺の構成になっています。

依頼をいただいてから納品までは大体2カ月くらいで、企画から撮影に入るまでが1カ月、撮影から納品までが1カ月といったイメージです。流れとしてはまず、どういったところを見せたいのかというヒアリングから始まり、僕の場合は絵コンテを描くことはあまりないので、字コンテでどういう映像を撮るかを詰めていきます。ただ、場合によっては動画コンテを作って、「大体のイメージはこんな感じです」と提示することもあります。

カット数としては19カットと通常のリールよりも多めになっており、ひとつひとつのカットを長く見せるようなものを中心に構成を組んでいます。また、複雑なエフェクトなどは入れず、ブランディングをメインに「どう見せたいか」など全体的な流れを意識しながら制作しています。なので、1本の動画内にホテルの良さや伝えたいことをまとめているような内容になっています。



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制作したホテル動画のタイムライン。編集ソフトはDaVinci Resolve。加工やエフェクトなどを重視した編集ではなく、元の撮影素材を活かして動画のコンセプトが視聴者に伝わるような編集を心がけた。







自主制作の場合

撮影機材

初期

カメラ:ソニー α7C

レンズ:タムロン28-75mm F/2.8 Di III VXD G2

ジンバル:DJI RSC2


2022年9月時点では、ソニーα7CとDJI RSC2に加え、タムロン28-75mm f2.8 G2のレンズ1本で撮影し、投稿していた。当時は大学生でお金もなく、映像で食べていけるわけでもなかったため、アルバイトで貯めたお金でなんとか揃えた機材でやっていた。「このときはジンバルで前に進んだり横に動いてみたりなど、動きのある映像が多かった時期で、見よう見まねでいろいろと試していました」と鈴木さん。



中期

カメラ:ソニー FX3

レンズ:タムロン28-75mm F/2.8 Di III VXD G2/ソニー FE PZ 16-35mm F4 G

ジンバル:DJI RSC2


ソニーFX3にカメラを変え、FE 16-35 F4 Gというソニーのレンズを増やし、広角でも撮影し始めた中期。FX3は夜間でも綺麗に撮れるため、より美しい日本の景色を映し出せるようになった。600万再生となった京都の動画投稿時期もこの頃で、徐々に縦型動画の仕事依頼も来るようになった。



後期(現在)

現在では使用機材が一気に増え、動画のテイストも大きく変わっている。初期・中期ではジンバルを使った動きのある映像を多く撮影していたが、最近は定点で構図を決めてから撮影することが多く、鈴木さん自身も定点でのワンカット撮影が好きになったという。


カメラ
ソニー FX3




レンズ
ソニー FE 24-70mm F2.8 GM II




ソニー FE PZ 16-35mm F4 G



ソニー FE 70-200mm F2.8 GM OSS



タムロン 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD



ペンタックス Super Takumar 55mm f1.8 (オールドレンズ)




トラベル三脚
Vanguard VESTA TB 204CB




ジンバル
DJI RS4




ショットガンマイク
ソニーECM-M1




編集のポイント

尺が長すぎると滞在時間が短くなりエンゲージメントの低下に繋がる

自主制作リールの編集は、クライアントワークのリールと違い、冒頭の1秒でどれだけ視聴者の心を惹きつけられるかが大事になってくるため、最も綺麗で印象的なカットを最初に持ってくるようにしています。また、動画の尺は長くとも20秒以内になるよう意識しています。尺が長すぎると視聴者の滞在時間が短くなり、エンゲージメントの低下に繋がり、「おすすめ」にも表示されづらくなってしまいます。


冒頭に印象的なカットを配置し、その後に街の雰囲気などが分かるスポットの説明を持ってくる構成にすることが多い。作例のテーマは「旅する日常」。



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カラーグレーディングについて

「Monet」を使用したグレーディング

Monetの特徴は様々なLUTを適用し自分好みの色を作ることができるところ

グレーディングでは、「Monet」というパワーグレードを使用しています。Monetの最大の特徴はさまざまなLUTを適用できるところです。数多くのLUTを細かく調整できるため自分好みの色を作ることができ、そこが気に入っている点です。一番早くいい色を出せるので重宝しており、クライアントワーク・自主制作を問わず、基本的にMonetを使用してカラーグレーディングを行なっています。








リールの再生数を伸ばすために

バズらせるにはどうすればいいのか?

ある程度スポットを広くまとめることでその魅力を最大限動画に詰めることができる

リールをバズらせたいのであれば、最初の3秒以内に印象的なカットを数カット入れましょう。作例の場合、冒頭のドローンの映像で「これって日本なの?」と思わせるような作りから、日本の鳥居が映るという印象的な構成にして飽きがこないようにしています。また、「○○神社」などではなく、「日本・京都・東京」といったようにある程度スポットを広くまとめた動画にすることで、そのスポットの魅力を最大限動画に詰めることができます。加えて、全てを惹きつけられるようなカットで構成すること、1〜1.5秒程度の短いカットを繋いで構成すること、動画の雰囲気に合う音源選びなども大事なポイントになってきます。





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リールをバズらせるためのポイント

・冒頭3秒以内に印象的なカットを数カット入れる

・スポットをまとめた動画(日本・京都・東京など)にする

・全てを惹きつけられるようなカットで構成する

・ひとつひとつのカットは1秒程度で短く構成する

・動画の雰囲気に合う音源選びをする



音源は動画と同じくらい重要

トレンドの音源を使うのもいいがこれから伸びそうな音源を見つけることも大事

リール制作においては音源が最も大事なんじゃないかというくらい、僕は音源選びに気を遣っています。どれだけ動画が良くても、音源が動画に合っていなければ視聴者はすぐ離れてしまいます。すでに流行っているトレンドの音源を使うのもいいですが、これから伸びそうな音源を見つけることも大事です。実際にTikTokで流行った音源をInstagramに持ってくるケースも多いです。もちろん、外れることもあるので見極めが難しいところですが、そこは時代やSNSの流れを読むなど、感覚による部分が大きいかもしれないですね。

600万再生された京都の動画が伸びたきっかけは音楽にもあり、音源自体はTikTokから持ってきたものでした。Instagramではまだ伸びていなかった音源で、リズムも分かりやすく非常に使いやすいものだったので、この形式を真似してくれたクリエイターがたくさんいたんです。同じ音源を使ってくれると、その音源ページの一番左上に僕の動画が表示され、相乗効果でどんどん動画が回っていったという背景があります。ある程度そういった相乗効果は狙っていて、クリエイター側の目線になったときに作りやすいだろうなと考えたところ、実際にそれがハマって伸びたという例になります。


同じ音源を使った動画は音源ページに一覧表示される。再生数の最も多い京都の動画が左上に配置されるため、相乗効果で再生数も上がる。







縦型を活かした表現について

縦型動画のメリット・デメリット

メリット

スマホ視聴に最適

各種SNSでフルスクリーン表示され、没入感がある。



奥行きが強調される

縦長のフレームは遠近感を出しやすく、人物を映すときに背景との距離感が際立つ。



ポートレート撮影に適している

人物を画面いっぱいに捉えやすく、顔や表情を強調できる。



視線誘導がしやすい

縦のラインを強調した構図(階段、道、建物の高さなど)が映える。



デメリット

画角の制約が多い

横の広がりを活かしにくいので、背景の情報量が減る。



映画的な表現が難しい

映画やドラマのシネマティックな画角(2.35:1など)には適さない。



グループ撮影がしにくい

人数が多いとフレームに収まりづらい。



編集の自由度が低い

横動画から縦動画にクロップする場合は、重要な情報が切れやすい。



面白い構図を作りやすいことが縦型動画のいいところ

縦型動画のメリットは、スマホの視聴に最適であり、広い画面でそのまま見ることができるため没入感があります。また、横型の動画では難しいような遠近感を出せることで奥行きが強調され、それによって人物を映すときに背景との距離感が際立つような映像を作ることができます。加えて、ポートレート撮影に適していたり、視線誘導がしやすい点なども縦型のメリットであり、なにより面白い構図を作りやすいことが縦型動画のいいところだと考えています。

デメリットとしては、本来であれば横いっぱいの景色を見せたいけれど、限られた部分しか見せられないなど画角の制約が多い点です。また、映画やドラマなどシネマティックな画角には適さない、人数が多すぎるとフレームに収まらない、編集の自由度が低い点などが挙げられます。

縦型動画の構図において、どんなことを意識しているかというと、まず見せたい被写体に目線が行きやすい構図になるように視線誘導をしています。次に、奥行きと抜け感を意識し、没入感のある構図を作っています。そして、主役が際立つよう余白を作ることでスッキリとした印象になるようにしています。この3つの要素が揃って初めていい構図になるのかなと考えています。



縦構図で意識するポイント

中心の主役が際立つように、手前の人物や両端の木の前ボケで視線誘導し、上側に余白を持たせることで開放感のある構図に。




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マーケティング戦略について

より多くの人々に発信を届けるには

プロフィールやハイライトなど細部の設計にも力を入れることが仕事に繋がる

マーケティング戦略として、日本に限らず世界の美しい景色を発信することで、より多くの人々に届くよう設計しています。フォロワー数が伸びてから世界の映像を発信し始めたので、最初は怖さもありました。日本の景色を投稿しているからこそフォローしてくれる人も多くいる中で、あえて海外の景色を投稿することはハードルが高く、ある程度アルゴリズムができている中でそれと違う発信をしてしまうことでゴチャゴチャになってしまいます。ただ、似たような発信をするクリエイターが増えていくこともあって、どこかで差別化をしなければいけないと思っい、あえて海外の景色の投稿を戦略的に行なっています。

さらに、キャプションを英語で書くことで海外からの関心を引き、グローバルな視聴者に向けたアプローチを強化しています。それによって、海外のクライアントや観光局、航空会社などからも依頼をいただけたので、結果的にはとても良かったと思っています。

集客の動線として、まず僕のリールを発見して興味を持ってくれたユーザーはプロフィール欄に移動しますよね。なので、プロフィールも分かりやすくシンプルに作っています。次に、最も見てもらいやすいであろうハイライトに実績となるホテル関連の映像を載せ、興味を持ってもらいやすくしています。そこで信頼性を感じてもらい、DMやメールでご連絡をいただけるような導線を戦略的に作っています。動画の内容だけではなく、プロフィールやハイライトなど細部の設計にも力を入れることも、仕事に繋げる上では大事なポイントだと考えています。


Instagramアカウントのプロフィールやハイライトは誰か見てもわかるよう、あえてシンプルに設計している。




コンテンツの飽和と対策

統一感を崩さない程度に海外の映像や編集なども取り入れる

先にも伝えた通り、日本を発信するクリエイターは増加しており、現在はコンテンツが飽和している状態にあります。そのため、統一感を崩さない程度にあえて海外の映像も発信し、海外テイストの編集なども取り入れるようにしています。また、自分独自のシリーズを展開することで、ブランド化させることを意識しています。例えば、「ワンカットで表現する私の世界」というハッシュタグをつけて投稿することで、別のクリエイターも同じタグを使ってくれるなど、そういったところから新たに自分を知ってくれる人が増えることもあります。このように小さな手間にもこだわって投稿することを常に意識しています。

僕のInstagramアカウントをフォローしてくれている方々は、日本の美しさや映像の美しさを見たいがためにフォローしてくれている方が多いかと思います。その反面、Instagramはコアなファンがつきづらいプラットフォームでもあると考えているので、今後はパーソナルなファンを増やしていくためにYouTubeなど別のプラットフォームにも力を入れていくことが目標であり、課題でもあります。

また、せっかくさまざまな宿泊施設の映像を制作させてもらっているので、より宿泊施設に特化したクオリティの高い映像制作や、観光局とのコラボ、地方自治体との映像制作、日本の伝統文化を伝える映像など、国内国外を問わず観光映像に関連するお仕事なども精力的にやっていければと思っています。